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木の家と、ホウ酸と。 › 農薬をつかった防腐防蟻工法の現実
木造住宅をお持ちの方・これから建てる方へ

そのシロアリ対策、
効果は「長くて1年」とご存じですか?

日本の木造住宅の多くは、農薬と同じ成分の合成殺虫剤を土台まわりに散布して、シロアリから守っています。 農薬は「分解してなくなる」ように設計された薬です。業界の保証期間は5年ですが、半減期から推定すると効果が見込めるのは長くて1年程度。 そのあとは、再処理をしない限り、家は無防備のまま年を重ねていきます。

このページでは、公的な評価書・製品ラベル・新聞記事などの一次資料をもとに、 農薬系の防腐防蟻工法の「現実」を、できるだけ分かりやすく整理します。

防護服・マスク・ゴーグルを着けて床下に薬剤を散布する作業
農薬系の木部処理剤は、農業用の殺虫剤と同じ有効成分(ネオニコチノイド系・ピレスロイド系など)を使っています。防護マスク・ゴーグル・不浸透性手袋・不浸透性防除衣を着けて作業することがラベルで求められています。
このページについて
本ページは、筆者が取締役を務める日本ボレイト株式会社が作成した一般向け説明資料を、筆者が個人サイト用に再構成したものです。 掲載している数値はすべて国の評価書・製品ラベル・新聞記事・業界団体の公開資料からの引用で、出典をそのつど明記しています。 ご自身の家の工法を選ぶ際の判断材料としてお使いください。
現実 01

効果が切れる

農薬は分解する前提の薬。保証は5年でも効果は長くて1年程度で、再処理しなければ無防備に。

現実 02

住む人の負担

製品ラベルには「危険」の表示と多くの注意事項。散布のたびに居住者への配慮が要る。

現実 03

家の寿命と地震

蟻害・腐朽のあった木造住宅の約9割が阪神・淡路大震災で全壊(大阪市立大学 宮野道雄教授の調査)。

現実 01 ── 効果が切れる

農薬は「分解してなくなる」ように作られています

木部処理剤に使われる殺虫成分の多くは、農薬として登録され、食品安全委員会が評価しています。評価書には、土の中で量が半分になるまでの日数(半減期)が記されています。

国の評価書に書かれていること(主なネオニコチノイド系成分)

成分名分類半減期(好気的土壌中)
イミダクロプリドネオニコチノイド系53〜69日
クロチアニジンネオニコチノイド系50〜70日
チアメトキサムネオニコチノイド系39〜47日
ジノテフランネオニコチノイド系28〜35日

出典:食品安全委員会「農薬評価書」各成分の土壌中運命試験(国内土壌)より。木材中での減り方は環境により異なりますが、「時間とともに分解する物質」であることは共通です。どの成分も、数十日で半分に減ることを前提に作られた薬です。

食品安全委員会 農薬評価書 イミダクロプリド 表紙

食品安全委員会「農薬評価書 イミダクロプリド」(2007年6月)表紙

同評価書 p.10 土壌中運命試験のページ

同 p.10「土壌中運命試験」。半減期が日数で示されている。

保証は「5年」、でも効果は長くて「1年」程度

公益社団法人日本しろあり対策協会の標準仕様に基づく保証期間は、一般に5年です。 ただし農薬登録の条件は土壌中の半減期180日以内で、上の表のとおり実際は数十日で半分に減ります。 1年で16分の1以下になる計算で、効果が見込めるのは長くても1年程度。保証期間の大半は「効果が切れたまま」です。

新築〜1年
効果あり
1〜5年
効果なし・保証期間のみ
5〜20年
無防備(保証も終了)
20〜40年
無防備
40年〜
無防備

※再処理をしなかった場合のイメージ。効果の持続は半減期からの推定。木造住宅は通常30〜60年以上使われます。

再処理の「現実」

  • 多くの家で再処理は行われていない。5年ごとの再処理を建て替えまで続けている家は少数です。費用の目安は業界で「1坪あたり数千円〜1万円程度」。30坪で1回十数万〜数十万円が5年ごとにかかります。
  • 床下に入れない家が増えている。基礎断熱・床下の配管・点検口のない間取りなどで、再処理そのものが難しい家も少なくありません。
  • 散布のたびに、居住者への配慮が必要。ラベルには「居住者に事前説明」「散布後は最低1時間換気」「食器や寝具を他へ移す」などの注意が並びます(現実02参照)。

再処理できるのは、ごく一部です

断熱材で木材が覆われた床下

床下の例。断熱材で木材が覆われ、再処理できる面はわずか。

○ 新築時(骨組みの状態)
上棟直後の骨組みの状態の住宅

すべての構造材に処理できる
※処理できるのはこのときだけ

✕ 竣工後(壁が閉じた状態)
完成後の住宅壁の中の柱・筋かい・合板
✕ 手が届かない

床下の見える所しか再処理できない
※構造材の大半は解体しない限り不可

  • 再処理できるのは部分的。床下から手の届く土台まわりだけで、断熱材や配管に隠れた部分には薬剤がかかりません。
  • 再処理できない部材がほとんど。家を支える柱・筋かい・構造用合板は壁の中にあり、竣工後は解体しない限り処理できません。
つまり、効果が切れたあとの家は、リスクが高いまま何十年も放置されることになります。
木材劣化率(シロアリ・腐朽・カビ)
34%

国土交通省補助事業「シロアリ被害実態調査報告書」(日本長期住宅メンテナンス有限責任事業組合)によると、調査した5,322棟のうち1,848棟(約34%)に蟻害・腐朽・カビのいずれかの木材劣化が見つかりました(蟻害1,004棟/腐朽349棟/カビ495棟)。

3軒に1軒で木材が傷んでいる。これが「再処理前提の防蟻」の結果です。

現実 02 ── 住む人の負担

製品ラベルを読んでみると、「危険」と書いてあります

木部処理剤の有効成分は、農作物に使う殺虫剤と同じです。虫の神経に作用して殺す薬ですから、人や環境への影響を小さくするために、使い方が細かく決められています。

木部処理剤ラベルのGHS表示「危険」

市販のシロアリ防除専用木部処理剤(イミダクロプリド2.0%・ペンフルフェン2.0%)のラベルより。GHS(国連の化学品分類)の表示。

同ラベルの成分・含量表示

同じラベルの「成分・含量」欄。イミダクロプリド(ネオニコチノイド系殺虫剤)2.0%、ペンフルフェン(殺菌剤)2.0%、残りは水と界面活性剤。「業務用」「飲めません」の表示もある。

なぜ、これほど注意が多いのか

ラベルの危険有害性情報には、「吸入すると有害」「臓器(中枢神経系、腎臓)の障害」「長期にわたる、又は反復ばく露による臓器の障害」「水生生物に非常に強い毒性」と書かれています。 これが、住まいの床下に5年ごとに散布される薬の表示です。

ラベルに書かれた「使用上の注意」(抜粋・要約)

  • 施工箇所(床下)と居住空間の間に空気の交換がある構造の建物では、処理方法に注意する
  • 施工現場の近隣にも、事前にその旨を通知し、十分な配慮を行う
  • 居住者や近隣に、病人・アレルギー体質の人・妊婦・乳幼児がいる場合は、あらかじめ関係者やかかりつけの医師と相談する
  • 食品・食器・飼料・玩具・寝具・衣類・ペット・観賞魚・植物などは、あらかじめ他へ移すか、薬剤がかからないようにする
  • 散布終了後は最低1時間、十分に換気を行い、その間居住者は床下進入口のある部屋へは入らない
  • 作業者は防護マスク・ゴーグル型メガネ・不浸透性手袋・長袖長ズボンの不浸透性防除衣を着ける(下図)
ラベルに指定された保護具のピクトグラム

▲ ラベル「使用中又は使用後の注意事項」より。推奨の保護具がJIS規格つきで指定され、ピクトグラムも表示されている。

出典:市販のシロアリ防除専用木部処理剤(ネオニコチノイド系)のラベルより要約。商品名・メーカー名は伏せています。

研究者からの指摘

雑誌『科学』掲載論文のタイトル部分

環境脳神経科学の研究者である黒田洋一郎氏らは、雑誌『科学』(岩波書店)で、有機リン系・ネオニコチノイド系農薬と子どもの発達障害との関係を指摘し、 「2012年、米国小児科学会は声明を公表し、米国政府や社会に『発達障害や脳腫瘍など、農薬による子どもの健康被害』を警告した」と紹介しています。

出典:黒田洋一郎・木村-黒田純子「自閉症・ADHDなど発達障害増加の原因としての環境化学物質──有機リン系、ネオニコチノイド系農薬の危険性(上)」『科学』岩波書店。因果関係については研究が続いており、ここでは「このような指摘がある」という事実をお伝えしています。

高気密・高断熱の家では、床下は「家の中」

合成殺虫剤の多くは有機化合物で、少しずつ揮発します。省エネ基準の強化で住宅の高気密化が進み、床下の空気が室内に入りやすい構造が増えています。 揮発するということは、木材から薬が減っていくということでもあります。

公益社団法人日本木材保存協会『木材保存学入門【改訂4版】』p.84 より
「高気密・高断熱化の推進から床下の住宅内部化、およびシックハウス症候群やアレルギー体質の人の増加にともなう化学物質過敏症に対する社会的な批判、という2つの点からシロアリ防除剤をこれまでどおり汎用することが困難になりつつあることは間違いない。」

隙間の多い旧来の住宅では許容できた方法が、高気密化される住宅では選びにくくなっている。これが、木材保存の専門団体の側からの見方です。

現実 03 ── 家の寿命と地震

蟻害のあった木造住宅の約9割が全壊しました

阪神・淡路大震災直後、大阪市立大学の宮野道雄教授が神戸市東灘区の木造住宅709棟を調査しました。

蟻害・腐朽のあった住宅の全壊率
約9割

調査した709棟のうち、蟻害・腐朽があった住宅は約31%。そのほぼすべて(約9割)が全壊していました。

シロアリ対策の効果が切れたまま年を重ねた家は、地震に弱い家になる可能性があります。防蟻処理は「虫対策」ではなく「耐震性能を守る工事」です。

阪神・淡路大震災 木造住宅の全壊率(神戸市東灘区)

出典:宮野道雄(大阪市立大学)による震災直後の調査。数値は公表グラフからの読み取りによる概数。「蟻害・腐朽不明」の区分は省略。

日本物流新聞 2006年5月25日 大地震再考 住の備えは万全か

日本物流新聞 2006年5月25日「大地震再考 住の備えは万全か」第1回 蟻害と木造住宅の耐震性(大阪市立大学大学院 宮野道雄教授)

COMPARISON

農薬系合成殺虫剤処理と、ホウ酸処理の違い

ホウ酸は鉱物由来の無機ミネラルで、揮発せず分解もしないため、木材中に残存する限り長期にわたり効果が期待できます。 米国・欧州・オセアニアでは標準的な工法で、日本でも2011年に防腐防蟻剤として認定されています。 人を含む哺乳類は腎臓でホウ酸を排出できますが、腎臓を持たないシロアリ・木材腐朽菌には作用します。

農薬系合成殺虫剤処理ホウ酸処理
効果の持続分解・揮発により低下。効果は長くて1年程度(保証は5年)揮発・分解しない。木材中に残存する限り長期に効果が期待できる
シロアリ保証5年が一般的日本ホウ酸処理協会により最長35年を付与
50年間の施工回数11回(5年ごとの再処理を想定)1回(改修で新しい木材を使うときはその部材のみ)。定期検査は継続する
木材劣化率
(シロアリ・腐朽・カビ)
34%
国土交通省補助事業「シロアリ被害実態調査報告書」5,322棟中1,848棟
0.01%以下
日本ホウ酸処理協会の施工実績。2011年以降の初期5万棟超のうち3棟で木材劣化
揮発・臭気あり(有機化合物)なし(無機物)。高気密の家でも室内空気を汚さない
健康面ラベルに「危険」表示。居住者・近隣への配慮が必要目薬や温泉、食品添加物にも使われる無機ミネラル

※木材劣化率の34%と0.01%以下は、調査対象・母数・定義が異なるため、長期的な劣化リスクの傾向を示す参考値です。
※ホウ酸処理も「点検不要」ではありません。雨漏り・漏水などで木材が濡れ続けるとホウ酸が流れ出ることがあるため、定期検査を継続し、早期発見につなげることが大切です。

まとめ

  • 農薬系の処理は保証5年・効果は長くて1年程度の工法です。建物の寿命(30〜60年以上)に対して、再処理を続けなければ守れません。
  • 再処理は費用・手間・薬剤への配慮が繰り返し必要で、実際には多くの家で行われていません。
  • 対策の切れた家に蟻害が進むと、地震時の倒壊リスクにつながります。
  • 「どの薬で、どのくらいの期間、何を守るのか」を確認してから、工法を選びましょう。
ホウ酸処理そのものの考え方・長所・短所は、トップページで詳しく書いています。
合成殺虫剤の半減期の一次データ、海外の採用事例、ホウ酸の弱点、定期検査と資産価値の話まで、出典付きでまとめました。
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本ページの引用元:食品安全委員会「農薬評価書 イミダクロプリド」(2007年6月)ほか各成分評価書/市販のシロアリ防除専用木部処理剤ラベル/日本物流新聞 2006年5月25日/黒田洋一郎・木村-黒田純子『科学』(岩波書店)/国土交通省補助事業「シロアリ被害実態調査報告書」/日本ホウ酸処理協会「データで選ぶ防腐防蟻剤」/日本木材保存協会『木材保存学入門【改訂4版】』p.84/宮野道雄(大阪市立大学)東灘区調査。いずれも公開資料です。